第3章 サイコパス
3-4.詐欺師「ENIGMA」
「ENIGMA」は、Sの最初のハンドルネームである。
「謎、謎の人物、裏の意味をもつモノ」といった意味を持つと同時に、第一次大戦後、ドイツが使用した暗号システムの名称でもある。
ここでは、人を操る事に長けた、その詐欺師としての顔に焦点を当てよう。
この話をするには、もう一人の被害者A氏について話す必要がある。
Aもまた、裏の顔とある種の特技を隠し持っていた。
第一は、膨大な数のアバターを所持していた事だ。
知り合った時はすでに3年越しのプレイやーで、その時点で恐らく、数千~万に近い数(それぞれに個別アカウントがある)を所持していたろう。
もちろん最初から知らされたわけではなく、時間の経過と共に、徐々に明らかになっていった。
Aの特技とは、自作のスクリプトによって、それらのアバターの動きを同時に数十体も制御出来た事だ。
また仮想空間上で多数の会社や土地不動産を持ち、仮想通貨を大規模に動かしていた。
そしてもう一つは、特定ユーザーのアバターの位置と、そのアバターの移動先やチャットの内容を地図上で把握する事のできる、一種の追跡・盗聴システムを使っていた事だ。
そう、私が最初に気付いたストーカーは、SではなくAの方だったのだ。
ハタと気付いた時には、周囲を動き回るアバターのほぼ全てが中身はAで、ぐるりを囲まれていた。
その時の驚きと混乱は、一言では表現し難いものがある。
そもそも、会社勤めをしながらどうやってそれら大量アバターを、四六時中操作できるのか、皆目見当がつかなかった。
その仕掛けの元はスクリプトだった事と、目的はストーキングではなく、ゲームを盛り上げ新規ユーザ―を増やす事。つまり一種のイベント屋だと知ったのは、だいぶ経ってからである。
大量のアバターを仮想空間上に分散配置し、新規で入ってきたユーザーそれぞれを観察する事で、好みに応じたイベントを準備し、同時にアイテムやゲーム空間内をそれに応じて作り込んでいく。
その為、数人のグルーブで活動しており、Aはそのリーダーだった。
相当な“ゲーム馬鹿”である。
想像するに、ゲーム全体のユーザー数は、巷で言われているほどは多くなかったのだろう。
だがハッカーSは、最初からそれに目を付けていた。
Sはそれまでも、他のネットゲーム上で窃盗やハッキングを繰り返していたのだろう。
そして私のPCの中に潜みながら、新たにAという最高のカモを見つけたのである。
例えば、私がまだハッカーの存在自体に全く気付いていなかった2008年の春頃、Aの住む中野の集合住宅において、建物全体の通信設備が過電流で丸ごと破壊される事件が起きた。
その後、「PCや家電が壊れ、家族にも影響が出ている。ハッキングとストーキングの可能性が高い。もし弁護士を知っていたら紹介して欲しい」
と頼まれた事もあったが、まだ何も知らなかった私は耳を貸さなかった。
十数台の高性能PC、高度なプログラム、高品質なアバターとアイテム類、土地不動産、大量アバターを使って分散管理していた多額の仮想通貨、どれをとってもSの大好物である。
加えてAは、Sにとって極めて好都合なターゲットだった。
なぜならサービスの運営側は、本人が被害を訴え出ないかぎり、基本的に何の対策も打てない。
標的を一人に絞っておけば、サービスから締め出される恐れも、刑事事件に発展するリスクも減らせる。
早い話、Aというただ一人の口さえ塞いでおけば、永遠に安泰だ。ずっと甘い汁を吸い続ける事ができるのである。
まさに驚異の狡猾さだ。そしてSは、実際にそれをした。
Sがどういう策略で人を操り、思う方向へと誘導するか、以下に具体的な例をいくつか挙げておく。
なお別紙を見ると、外国人に成り済まし、海を越えて引っ越し先まで探し当て、ターゲットのAを執拗に追跡し、新しい住居建物まで「STUXNET」を使って汚染しようとするSの異常さが、よりハッキリと分かるはずだ。
もちろん、近くでAが聞き耳を立てている事を承知した上でそれをやる。
これは一種の“すり替え”である。
一方ではそしらぬ顔で運営側に近づき、犯行を他人の仕業に見せかける為のお膳立てをしておく。
その一方で、わざとその様子を見せつける事でターゲットを脅し、口を閉じさせる。
人の弱みに付け込み、巧みに人を操り、自分が動きやすい状況を作り出すのだ。
サイコパスが、まさにその本性を露わにした瞬間である。
その後、当然のごとくアカウント・ハッキングが一気に勢いを増した。
またこの人物は、万一、自分の嘘がバレても決して動じない。どんな相手でも大胆不敵に近づき、壮大な嘘で事実を歪めるか、あるいは真っ向から攻撃し、結局はねじ伏せる。
一方Aは、誰が見てもお人よしの、ただの夢想家に見えた。
詐欺師から見れば、最も扱いやすいタイプの人間だ。
実際彼は、繰り返しハッキングを受け、仮想通貨や著作物を何百回と盗まれても、じっと耐えるばかりだった。
そしてある時点から、完全に抗う事を止めてしまった。
その後は、あまりに馬鹿ばかしく、且つ悲惨な状況が延々と続いた。
Sは、仮想空間上でAを四六時中追いかけまわすようになった。
膨大な数のアバター対、その何分の一かの盗まれたアバター群との追いかけっこだ。
ゲームの仮想空間は、グリッドと呼ばれる四角に区切られた地図プレートの集合で構成されている。
Sは、ログイン中のアバターを好んでアカウントハックのターゲットにした。
おそらく、同一グリッド上の、活動中のアバターの方が狙い易かったか、面白かったのだろう。
そのためグリッド間を移動しながら、追う側と追われる側の鬼ごっこ状態になった。
運営側は、この時のハッキングを「シャーマンアタック」と呼んでいた。
呪文をかけるように、ログイン状態のままで相手のアカウントを略奪し、所持する仮想通貨を盗んだ上で、わざとパラメータを変更してアバターの外見を変化させ、痕跡を残してからおさらばする。
ただし継続収入のある会社経営者など、気に入ったアバターだけは、ちゃっかり自分のモノにするというやり方だ。
2008年の11月頃には、完全に私を含む3名のベクトル三角形が出来上がっていた。
何とか事態を知らせようと、まだ状況が飲みこめていなかった私の後をAが追い、そのAをSが追ってアカウントを略奪する。それはSにとって、完全に楽しいゲームだった。
私の周囲だけにハッキング被害が集中していた、これがその理由である。
事態を知ってから、何度も訴え出るよう説得しようとしたが、こんな答えが返ってきた。
「皿の上にある食べ物が一部腐ったら、皿ごと捨てるか、全部を洗い流してしまうでしょう?私はその皿でケーキを食べます」
大量のアバターを運営側に取り上げられる事を、どうやら極端に恐れていたようだ。
そうこうしている内に、Sは2~3人の若い外国人を懐柔し、手下として使うようになった。
Aのやり方を真似たのである。
またAと私との連絡はことごとく妨害され、チャットでの話すら一切出来なくなった。
そして年が明ける頃には通信手段そのものを失い、以来ただの一度も連絡が取れていない。
「このデジタル時代に、あり得ない」と思うだろう。
だが本当なのだ。実際、今もそれは続いている。
つい先日の2016年2月。唯一残してあったAのSkypeアカウントがあった。
流石にもう時効だろうと思い、メッセージを送ろうとしたがやはり送信自体がブロックされ、数日後、管理サーバー上に保存されていた私のデータが改ざんされ、リストから勝手に削除されていた。
代わりに、身に覚えのない不気味な長い英文メッセージが、「ムード」というプロファイル機能の中に残っていた。
信じがたい事に、二人の追いかけっこはその後何年も続き、2016年現在もAは雁字搦め状態である。
相手の自由を奪う目的は主に保身だが、この場合は仮想通貨を盗み続ける目的もある。
生かさず殺さず、延々と甘い汁を吸う。
凄まじい執念で、何があっても獲物を手放さないのだ。
そうまでしてゲームを捨てようとしないAもまた異常だが、もう片方は、まるで吸血鬼さながらだ。
Sは、ターゲットの監視と追跡、ただ単にその為だけに、わざわざSkypeや他のシステムサーバーまで乗っ取る。(※セキュリティに感知されずにアカウント情報を改ざんするには、システムそのものを乗っ取る必要がある)
“一般常識”に支配される人間には、到底理解できないだろうが、それが異常人格者であるSの“攪乱”手口であり、サイコパス特有のやり方なのである。
とにかく詐欺師Sは、被害者2人の口を封じ、決して連絡を取り合えないよう孤立させるという策略において、目下のところはみごと成功している。
だがしかし、真の危険性はその事ではない。
2009年の春以降、現実世界で私を追う為にSが使った追跡ツールは、まさしくAが仮想空間用に作り上げた、地理情報システム(GIS)を利用した追跡プログラムそのものだった。
「あのニガーが鳩にそうしたように、私はお前を追跡する」
この言葉の、真の意味である。
さらに2009年以降、世界各国で起きている破壊被害や、大規模サービスのサーバー乗っ取りなど、多発しているセキュリティ事件の多くに、同じようにGISが使われている。
盗んだ技術を危険なサイバーテロツールに加工する能力において、Sは一種の天才である。
多くの企業や研究者から次々と技術を盗み出す目的もそこにあるのだ。
次章では、その辺りを詳しく説明する。
「謎、謎の人物、裏の意味をもつモノ」といった意味を持つと同時に、第一次大戦後、ドイツが使用した暗号システムの名称でもある。
ここでは、人を操る事に長けた、その詐欺師としての顔に焦点を当てよう。
この話をするには、もう一人の被害者A氏について話す必要がある。
Aもまた、裏の顔とある種の特技を隠し持っていた。
第一は、膨大な数のアバターを所持していた事だ。
知り合った時はすでに3年越しのプレイやーで、その時点で恐らく、数千~万に近い数(それぞれに個別アカウントがある)を所持していたろう。
もちろん最初から知らされたわけではなく、時間の経過と共に、徐々に明らかになっていった。
Aの特技とは、自作のスクリプトによって、それらのアバターの動きを同時に数十体も制御出来た事だ。
また仮想空間上で多数の会社や土地不動産を持ち、仮想通貨を大規模に動かしていた。
そしてもう一つは、特定ユーザーのアバターの位置と、そのアバターの移動先やチャットの内容を地図上で把握する事のできる、一種の追跡・盗聴システムを使っていた事だ。
そう、私が最初に気付いたストーカーは、SではなくAの方だったのだ。
ハタと気付いた時には、周囲を動き回るアバターのほぼ全てが中身はAで、ぐるりを囲まれていた。
その時の驚きと混乱は、一言では表現し難いものがある。
そもそも、会社勤めをしながらどうやってそれら大量アバターを、四六時中操作できるのか、皆目見当がつかなかった。
その仕掛けの元はスクリプトだった事と、目的はストーキングではなく、ゲームを盛り上げ新規ユーザ―を増やす事。つまり一種のイベント屋だと知ったのは、だいぶ経ってからである。
大量のアバターを仮想空間上に分散配置し、新規で入ってきたユーザーそれぞれを観察する事で、好みに応じたイベントを準備し、同時にアイテムやゲーム空間内をそれに応じて作り込んでいく。
その為、数人のグルーブで活動しており、Aはそのリーダーだった。
相当な“ゲーム馬鹿”である。
想像するに、ゲーム全体のユーザー数は、巷で言われているほどは多くなかったのだろう。
だがハッカーSは、最初からそれに目を付けていた。
Sはそれまでも、他のネットゲーム上で窃盗やハッキングを繰り返していたのだろう。
そして私のPCの中に潜みながら、新たにAという最高のカモを見つけたのである。
例えば、私がまだハッカーの存在自体に全く気付いていなかった2008年の春頃、Aの住む中野の集合住宅において、建物全体の通信設備が過電流で丸ごと破壊される事件が起きた。
その後、「PCや家電が壊れ、家族にも影響が出ている。ハッキングとストーキングの可能性が高い。もし弁護士を知っていたら紹介して欲しい」
と頼まれた事もあったが、まだ何も知らなかった私は耳を貸さなかった。
十数台の高性能PC、高度なプログラム、高品質なアバターとアイテム類、土地不動産、大量アバターを使って分散管理していた多額の仮想通貨、どれをとってもSの大好物である。
加えてAは、Sにとって極めて好都合なターゲットだった。
なぜならサービスの運営側は、本人が被害を訴え出ないかぎり、基本的に何の対策も打てない。
標的を一人に絞っておけば、サービスから締め出される恐れも、刑事事件に発展するリスクも減らせる。
早い話、Aというただ一人の口さえ塞いでおけば、永遠に安泰だ。ずっと甘い汁を吸い続ける事ができるのである。
まさに驚異の狡猾さだ。そしてSは、実際にそれをした。
Sがどういう策略で人を操り、思う方向へと誘導するか、以下に具体的な例をいくつか挙げておく。
なお別紙を見ると、外国人に成り済まし、海を越えて引っ越し先まで探し当て、ターゲットのAを執拗に追跡し、新しい住居建物まで「STUXNET」を使って汚染しようとするSの異常さが、よりハッキリと分かるはずだ。
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「彼らは私の家へやって来てました。そして言いました。“この家は掃除が行き届いていない”と。彼らは、私によく似た顔の少女を見たかもしれません」
~Aの仲間がグループで家までおしかけて来て、私を脅迫した~
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「彼は女性のアバターで現れ、愛をささやいた後、私の財布を盗んで行きました」
~私を騙して金を盗んだのはAである~
--------------------
【別紙C/D /E】
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またアカウントハッキングがサービス内で多発しはじめた頃、堂々と運営スタッフに近付き、情報提供と称してわざわざ私を呼び出し、Aのストーキング行為を通告させようとした事もある。「彼らは私の家へやって来てました。そして言いました。“この家は掃除が行き届いていない”と。彼らは、私によく似た顔の少女を見たかもしれません」
~Aの仲間がグループで家までおしかけて来て、私を脅迫した~
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「彼は女性のアバターで現れ、愛をささやいた後、私の財布を盗んで行きました」
~私を騙して金を盗んだのはAである~
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【別紙C/D /E】
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もちろん、近くでAが聞き耳を立てている事を承知した上でそれをやる。
これは一種の“すり替え”である。
一方ではそしらぬ顔で運営側に近づき、犯行を他人の仕業に見せかける為のお膳立てをしておく。
その一方で、わざとその様子を見せつける事でターゲットを脅し、口を閉じさせる。
人の弱みに付け込み、巧みに人を操り、自分が動きやすい状況を作り出すのだ。
サイコパスが、まさにその本性を露わにした瞬間である。
その後、当然のごとくアカウント・ハッキングが一気に勢いを増した。
またこの人物は、万一、自分の嘘がバレても決して動じない。どんな相手でも大胆不敵に近づき、壮大な嘘で事実を歪めるか、あるいは真っ向から攻撃し、結局はねじ伏せる。
一方Aは、誰が見てもお人よしの、ただの夢想家に見えた。
詐欺師から見れば、最も扱いやすいタイプの人間だ。
実際彼は、繰り返しハッキングを受け、仮想通貨や著作物を何百回と盗まれても、じっと耐えるばかりだった。
そしてある時点から、完全に抗う事を止めてしまった。
その後は、あまりに馬鹿ばかしく、且つ悲惨な状況が延々と続いた。
Sは、仮想空間上でAを四六時中追いかけまわすようになった。
膨大な数のアバター対、その何分の一かの盗まれたアバター群との追いかけっこだ。
ゲームの仮想空間は、グリッドと呼ばれる四角に区切られた地図プレートの集合で構成されている。
Sは、ログイン中のアバターを好んでアカウントハックのターゲットにした。
おそらく、同一グリッド上の、活動中のアバターの方が狙い易かったか、面白かったのだろう。
そのためグリッド間を移動しながら、追う側と追われる側の鬼ごっこ状態になった。
運営側は、この時のハッキングを「シャーマンアタック」と呼んでいた。
呪文をかけるように、ログイン状態のままで相手のアカウントを略奪し、所持する仮想通貨を盗んだ上で、わざとパラメータを変更してアバターの外見を変化させ、痕跡を残してからおさらばする。
ただし継続収入のある会社経営者など、気に入ったアバターだけは、ちゃっかり自分のモノにするというやり方だ。
2008年の11月頃には、完全に私を含む3名のベクトル三角形が出来上がっていた。
何とか事態を知らせようと、まだ状況が飲みこめていなかった私の後をAが追い、そのAをSが追ってアカウントを略奪する。それはSにとって、完全に楽しいゲームだった。
私の周囲だけにハッキング被害が集中していた、これがその理由である。
事態を知ってから、何度も訴え出るよう説得しようとしたが、こんな答えが返ってきた。
「皿の上にある食べ物が一部腐ったら、皿ごと捨てるか、全部を洗い流してしまうでしょう?私はその皿でケーキを食べます」
大量のアバターを運営側に取り上げられる事を、どうやら極端に恐れていたようだ。
そうこうしている内に、Sは2~3人の若い外国人を懐柔し、手下として使うようになった。
Aのやり方を真似たのである。
またAと私との連絡はことごとく妨害され、チャットでの話すら一切出来なくなった。
そして年が明ける頃には通信手段そのものを失い、以来ただの一度も連絡が取れていない。
「このデジタル時代に、あり得ない」と思うだろう。
だが本当なのだ。実際、今もそれは続いている。
つい先日の2016年2月。唯一残してあったAのSkypeアカウントがあった。
流石にもう時効だろうと思い、メッセージを送ろうとしたがやはり送信自体がブロックされ、数日後、管理サーバー上に保存されていた私のデータが改ざんされ、リストから勝手に削除されていた。
代わりに、身に覚えのない不気味な長い英文メッセージが、「ムード」というプロファイル機能の中に残っていた。
信じがたい事に、二人の追いかけっこはその後何年も続き、2016年現在もAは雁字搦め状態である。
相手の自由を奪う目的は主に保身だが、この場合は仮想通貨を盗み続ける目的もある。
生かさず殺さず、延々と甘い汁を吸う。
凄まじい執念で、何があっても獲物を手放さないのだ。
そうまでしてゲームを捨てようとしないAもまた異常だが、もう片方は、まるで吸血鬼さながらだ。
Sは、ターゲットの監視と追跡、ただ単にその為だけに、わざわざSkypeや他のシステムサーバーまで乗っ取る。(※セキュリティに感知されずにアカウント情報を改ざんするには、システムそのものを乗っ取る必要がある)
“一般常識”に支配される人間には、到底理解できないだろうが、それが異常人格者であるSの“攪乱”手口であり、サイコパス特有のやり方なのである。
とにかく詐欺師Sは、被害者2人の口を封じ、決して連絡を取り合えないよう孤立させるという策略において、目下のところはみごと成功している。
だがしかし、真の危険性はその事ではない。
2009年の春以降、現実世界で私を追う為にSが使った追跡ツールは、まさしくAが仮想空間用に作り上げた、地理情報システム(GIS)を利用した追跡プログラムそのものだった。
「あのニガーが鳩にそうしたように、私はお前を追跡する」
この言葉の、真の意味である。
さらに2009年以降、世界各国で起きている破壊被害や、大規模サービスのサーバー乗っ取りなど、多発しているセキュリティ事件の多くに、同じようにGISが使われている。
盗んだ技術を危険なサイバーテロツールに加工する能力において、Sは一種の天才である。
多くの企業や研究者から次々と技術を盗み出す目的もそこにあるのだ。
次章では、その辺りを詳しく説明する。